光を食べてよ と 囁く螢烏賊(ほたるいか)/船曳秀隆
の二本の腕で
先端の吸盤を
丸く伸ばす
魚を摘む
腕で
くちを触る
螢烏賊は十本の
脚と一緒に
神から
光を賜った
二
僕は
周りの螢烏賊を
よけて
泳ぐ
近づきすぎないように
ふと
触手を僕に当ててくる何者かが
居た
敵か? と
僕は
思ったが
脚で
水と触手を
蹴り落とした
鰭で
水と触手を
はたきおとした
すると
そいつは珊瑚虫(さんごちゅう)だった
おののいた
螢烏賊は
墨袋から
墨を出し
珊瑚虫に
注いだ
周りの群へと
澄み切っていた光
神から授かった光は
墨の黒さで
見えなくなった
光を食べてよ
と 海に沈んだ
僕は
云い
螢烏賊が
水をくぐる
(船曳秀隆詩集『光を食べてよ と囁(ささや)く螢烏賊(ほたるいか)』より。)
「光を食べてよ と 囁く螢烏賊」初出:2007年12月 朝日カルチャーセンター
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