静けさの残り音/かんな
 

窓ぎわの一輪挿しに
雲の合間から洩れた光があたる
人の群れの片隅に
置かれたままの孤独には
今にも途切れそうな蛍光灯の橙色が
仄かにあたっている

本棚の蔵書の間に
あなたに書いた手紙が挟まっている
記憶も感情もいつしか
紙のように褪せていくことを
わたしの人生が証明していく
命は儚い
生きることは容易ではない

まっすぐに
見据えた瞳の奥に
あなたは深い悲しみを密かに飼っていた
人は並んで歩いていても
同じ場所に向かうとは限らない

花びらが音も立てずに床に
ひらりと落ちていく
静けさはしん、と音を立て
それはあまりにも悲しみの音と似すぎている
わたしは本を手に取って手紙を見つけると
パタンとわざとらしく音を立て
元に戻した

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