凡庸とパンク/ブッポウソウ
 
「あのっ すみません」

それは大き過ぎる声だった。朝の慌ただしい駅構内はもちろん人でいっぱいだったが、そんなに大きな声を出す人はいなかった。しかしそんなに大きな声だったにもかかわらず、振り返る人が少しいただけでほとんどの人は我関せずというふうに各々のことを続けた。
声の主は女だった。声をかけられたのは男のようでもあり、また女のようでもあった。声の主の方は肩には届かないくらいの長さにそろえた髪に凡庸な黒の薄衣をはおり同じく黒の手鞄を提げ凡庸な砂色のパンツを穿いており、声をかけられた方はブラウスというよりは労務衣といったふうの白のボタンシャツにナイロン製の頭陀袋を袈裟にかけ硬骨さを感じさせ
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