壊疽した旅行者 五/ただのみきや
 
インセンス

火を点けて
饒舌な沈黙の眼差しと
爛熟の吐息で苛みながら
突く牛の潤んだ目
獅子の尾で打ち据えた
定理のない
地獄をひとひら移植して
舐(ねぶ)られ食まれ灼熱に
解き放たれる悦楽に
匂い立ってはゆらめいて
透けて往く
おぼろに踊るその最中
灰は想わず
喪失だけを遠くはためかせ
言葉は骨壺




日向の死体

日向に揺れるクロッカス
想われるよりも忘れられ
日は瞑り 月は見る
盥(たらい)に溢れた気狂いの
絞められるような春の声
惜しげもなく捧げられ
影のように移ろって
心地のよさに違和はなく
絹の
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