傷口が塞がらない/こたきひろし
背後から呼ばれたような気がした
雑踏に立ち止まり振り返ると
それは自分ではなかった
ぜんぜん知らない誰かが
知ってる人間を偶然見かけたらしい
呼び止めて懐かしげに言葉をかけていた
私は何だかがっかりした
心の寂しい隙間を
日の当たらない陰を
足で踏まれたような気持ちになった
言葉では上手く伝わらないかも知れない
心にあるやわらかい部分
体の粘膜に相等するかも知れない所が
ひっかかれたような気がした
思いがけなく
ひりひりと痛み始めた
私だって誰かに不意に名を呼ばれてみたかった
のかもわからない
懐かしい再会を果たしたかった
のかもわからない
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