明滅/たもつ
お言葉ですが、と言った男
確かに言葉に違いない
うまく喋る
来年の言葉も昨年のように喋る
言葉は耳で聞くものではなく目で見るもの
肉体だからね、目で見る
山下君、山下君だったね
はい、山下です、お言葉ですが
細い首にネクタイが結ばれて歪んでいる
肉でも体でもないのに
自分自身であるかのように直す
山下君は街を歩く肉体のひとつ
街には縦に川が流れ
丹念に探せば階段もある
生きているものしか上り下りできないから
山下君、今日は
どれだけ上り下りしてきたのだろう
階段ですね、お言葉ですが
うまく喋る
三日後の階段について喋る
肉体への愛が見てとれる
愛は一人で支えるもの
誰もが一度はそう思う
明滅する魂たちの遊び
おそらく魂は肉体に甘え過ぎでしまった
すべては夜になる
親戚のように世界は寡黙になり
山下君の夜のお言葉だけが続く
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