壊疽した旅行者 ニ/ただのみきや
 

たんなる浮浪者だ




原体験

ジュエリーボックスの中
真珠は不思議だった
なぜ自分だけが月に惹かれるのか
宝石たちはみな
自分が一番美しいと月になど目もくれず
女の胸や耳に纏ろう星のよう
真珠は仕舞われている時でさえ
否むしろ箱の中
ひしひしと感じている
呼ばれるように引かれるように




白紙の世界

わたしは言葉を使う
言葉には定まった音と意と形がある
丁度よさそうなものを見つけ
ヤドカリみたいに拝借する

想像できますか
言葉も名前も存在すらしない世界が
思考全てが言葉になってしまう人に
どこまでもいつまでも白紙のままの




                    《2020年3月29日》








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