春景に立ち/帆場蔵人
風が強いから洗濯物を追いかけて
綿毛が背中を撫でていく、さよなら
踏みぬいてしまいそうな青い草地を
蛙が春へと飛んでしまったから
ひとりきりで立ってます
スイカズラの甘い蜜を分けあって
いたのはまだ、雛鳥だったころで
朝陽のたびに同じ太陽に手をかざして
庭の草葉の陰で死んでいく鳩を看取った
あそこにはほら、綿毛をなくした、花
それでも、花、でしょう
壊れてしまっても万華鏡はきれい
クルクルとまわりながら温かな洗濯物を
抱きしめて後ろ向けに、落ちていく
懐かしい春という春の風のなか
ひとりきりの、みじかい、旅路で
私の手にはまた皺が刻まれた
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