in future/由比良 倖
 
音楽が始まる。見過ごしてきたものを、ひとつ、ひとつ、記憶は、いつか逆流するものだし、私は私のふりをしていたいつかの私以外なのだし、私は、雨の時間を浴び続けている、灰色の、波。未来を誰よりも早く弾きたい私は、赤いパッケージの煙草、赤いお酒、すっかり寒さと思考の炎症で、真っ赤になって、地球のどこかで時を刻む、大まかに、毛布の中、どこまでも開かれていく私は、世界の調子が悪い。

夢を見た。僕は光にまみれていて、寒くて、あなたの手を取るけれど、それはプラスチックで温度が無くて、あなたには顔が無くて、僕はマネキンの手をしっかりと抱いているのだった。「手から人間が産まれるなんてことがある?」ウィンク。

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