かすかな朝焼けとホオジロの声/山人
が崩れた中でのバランスを保持しようとする、バランス保持筋力が養成されていたのだった。
シロのいない散歩は、ただ、体一つでバランスは良いはずなのだが、なにかないと逆にアンバランスになる。あまった手はどこに置けばいいのか、ポケットに手を差し込むのもあるだろう、でもまさぐるものすらポケットには何も収まっていない。シロとの散歩は、私の散歩であると同時にシロの散歩でもあったが、不思議な、私とシロが一体となったある種の混同体でもあり、それが早朝のとがった空気を吸い、夜のカエルの鳴き声のしじまにとろけていたのだった。
かすかな朝焼けとホオジロの声がした朝はいつしか衰えて、遠い山はどろりとくもり、カラスが二度ほど単調な声を落としていった。
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