転がる/為平 澪
交差点で行きかう人を 市バスから眺める
私には気付かずに
けれど 確実に交差していく人の、
行先は黒い地下への入口
冷房の効きすぎたバス
喋らない老人たち
太陽に乱反射する高層ビルの窓
その下に黙ってうつむく黒い向日葵
通り過ぎていく冷めきった人間たち
バスは座席からこぼれつづける多くの会話を
次の停留所で吐き出しては
また、新しい言葉を積んでいく
── 梅田の一等地あたりのマンションでいくらですか
── ロッカー、どっこも空いてないやん
── あの人いっつも家柄の自慢ばっかりやんか
『次は土佐堀三丁目』
大阪に網羅する血管の、
血が通っている
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