壊疽した旅行者 一/ただのみきや
一つの満ち欠け
もし全ての人がいなくなったら
鳥は存在するだろうか
鳥を鳥と見分ける目も認識する知性も存在しない
鳥という呼び名も概念もイメージもすでにない
人がかつて鳥と名付けた何かが存在するのか
しかし存在という言葉も意味も人と共に消え
自然物か人工物かの区別すらとっくになくなった世界
知識も技術も
愛情も財産も
みな同じ茫漠とした虚無を構成する塵やガスのよう
言葉も名付けも感動も
想像できる全て
推論し得る全て
ともかく思考感覚の全てが
その思考感覚する人の完全な不在によって煙と化す
わたしが世界の中に在るのか
世界がわたしの
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