生活/たもつ
とり急ぎ、という言葉を初めて聞いたとき
鳥も急ぐのだと思った
正確に言うと
へえ、鳥も急ぐんだ、と思った
それはユウコの初めての言葉だった
今思えばあの頃
鳥は皆、急いでいたような気もする
まだ急いでいるものなのだろうか
ユウコは青白い顔色で
都会が良く似合った
生きる音がしていた
指は幾度となく紙をなぞり
影は指と紙との境目をつくり
指を辿れば
そこにはいつもユウコがいたのだった
ここは立地が良い、悪い、というのが好きで
とりあえず、という珍妙な言葉を
生まれて初めて聞いたのもユウコからだった
鳥は会えないのか、和えないのか
そこのところはわからなかったけれど
ユウコの言葉の中で鳥は鳥として生きた
ユウコにはユウコの十年があった
ユウコとの十年があった
たとえ息を吐くだけでも
それは生活でよかった
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