恋人たち/うみ
 
吸分の静けさと
愛をかたるべくもないほどの
ちいさなほほえみは
空を行き交う電波よりもすばやく
ブラジルでキスをする
恋人たちのところに届いている
ぼくたちは愛が素粒子だと
そして波だと いまではもう知っている
どんな科学者よりも賢明に

(かもめが鳴いている
それはぼくたちと同じ沈黙とすこしのかなしみのため
いずれ見えなくなるコンビナートの蜃気楼のため)

窓枠にもたれたきみの横顔が
空をよこぎるにじいろの夕暮れに染まり
死んだようにあおざめてゆく
外国の男がうたうのをやめ
ぼくらはまた話しはじめる
これからどこへゆこうかと
あたらしいあやまちを重ねはじめる
けれどこの海のむこうがわでは今も
小麦色の肌の恋人たちが愛し合っている

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