17歳/さち
紺色の制服を着て
学校帰り
電車の中で何かが抜け落ちてゆく
降りるはずの駅をやり過ごして
いつもかよった
県境を流れる江戸川の河原
ただ
空が広くて
ただ
風は流れて草の匂いがした
鉄橋の上を行きかう電車
上りと下りがすれ違うとき
一瞬 橋いっぱいに長くなるとき
ただ
それを待っていた
ただ
それが見られたら
いいことがあるような気がして
日が暮れかかって
電車の窓の灯りが
長く長く流れる
河原の土は 少し温かいような気がした
ただ
空は広くて
ただ
風は少し夜の匂いがした
私は小さかった
どうしようもなく 小さかった
川向こうに見える街は
私とは関係なく陽気に見えた
なにかを確かめに来た気がするのに
それはいつも手が届かなくて
鉄橋の上は電車の姿も夜に溶けてしまって
窓の灯りだけが
長く長く流れる
もう
帰らなければならないと思いながら
座った場所の温もりの名残に
どうしても
立ち上がれなくて
いつも涙がにじんだ
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