踏み切りの前で/こたきひろし
生きている道
生きていく道
途中踏み切りにぶつかる事は何度もあった
無情に遮断機がおりているときは
じりじりと待たなければならず
運よく遮断機が上がっていても
慎重に渡る必要があった
夏
踏み切りの線路の上は陽炎が揺れていた
冬
人身事故の為に
踏み切りの線路の上には千切れた肉片がこびりつき
血液がまとわりついていた
春
踏み切りは満開の桜の森に埋もれてしまった
秋
何も起こりそうになかったが
金木犀の香りで気が狂いそうになった
生きている道
生きていく道
途中何度も踏み切りにぶつかった
ある日
遮断機がおりたまま開かなくなってしまった
そこを通るのを諦めて他の道を選ばなくては
ならないのか
踏み切りは閉まっているだけで
電車は来る気配はない
迷った末に
踏み切りを無視して
線路内に浸入しようとした
何もかも嫌になって
何もかも
絶望して
はいけない
踏み切りの前で踏みとどまった
生きている道
生きていく道
生きなければ
ならない道だから
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