エミューの憂鬱/竜門勇気
ら
僕の目を見ていた
それはなにか祈りのように思えた
どれだけ長い間そうしたのか
少し破れた金網から僕は彼を触った
ふかふかして柔らかそうだった羽毛は
湿っていて固くしっかりとしていた
けどそれは柔らかさ以上に温かくて
ふかふかしてるとか
ふわふわしてるとかってのは
どうでもいいことなんだと気づいた
温かなものがいつでも
ただやわらかであるなんてただの信仰だ
喜びがいつも楽しいわけじゃないように
檻を離れるとエミューは
僕の行く方を追って檻の中を歩く
何故かそれが悲しくて
檻を離れるのをやめて
温かで硬い羽の奥を撫でていた
母はいつの間にか隣にいて
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