撃たれる/岡部淳太郎
いる。日々新しく塗り直される、そう思われてい
る情報や流行や風の噂のなかで、俺は何ものにも反対も
しなければ、賛成もしない。俺は青くさい平和論者でも
なければ、急進的な怨念で戦う者でもありえない。俺は
俺で、ありつづけたいだけだ。だから、戦いが日常であ
る巷に不用意に出てしまえば、撃たれることもありうる
だろうと思っている。馬鹿だな、そんなことに、なるわ
けがないじゃないか。頭のなかでもう一人の自分がそう
嘯くが、この戦闘のなかでは、すべての最悪に気を配っ
ていなければならない。何しろいまは戦中なのだ。発禁
文書が枯れ枝のように次々に燃やされ、安っぽい思想が
怒号のように響き渡る。すべてのいのちは撃たれるため
にのみ存在し、俺のかつての漠然とした予期もまた撃た
れて、燃やされるだけだろう。何ものにも反対もしなけ
れば賛成もしない、この俺を撃つがいい。俺の安っぽい
矜持も撃たれ、その死骸はただ通過されてゆく。その後
は生臭い風が吹いて、ささやき声が交わされるだけだ。
馬鹿だな、そんなことに、なるわけがないじゃないか。
(二〇一六年七月)
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