デカメロン/アニュリタ
大学を卒業したて、といった雰囲気の青年がウイスキーの入ったコップを開けた。彼が水谷らしい。生地や仕立ての良さそうな、明るい灰色のスーツに細身だが筋肉や骨格はしっかりしていそうな身体を包んで、今夜は緑色の細かい柄のネクタイをしている。金色のタイピンに白く光る石があしらってあった。
こころもち緊張したような笑顔を作って、水谷は語り始めた。
(水谷青年の話)
「私など、皆様に比べたら本当に赤ん坊のようなものですよ。経験も少なく、面白いお話もできないのですが、実は学生時代に年上の、商社勤めの女性に可愛がっていただいたことがあります。苦学していたものですから彼女の経済的な援助は大変ありがた
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