夏のお客様/たもつ
お客様が来て壊れた扇風機の話をする
いつから動かない、とか
動かないから涼しくない、とか
壊れるようなことはしていない、とか
その間にもお客様は松月堂のケーキを食べ
美味しい珈琲ですね、などと感想を述べ
そういうことは電気屋か
家電量販店で言って欲しい
少なくともここは民家だし
ローンだってきちんと数えれば
あと十七年と三か月残ってるし
そもそもお客様は左手を包帯で吊っているのに
そのことにはまったく触れずに
ひだ、と言った途端、ところでと
また壊れた扇風機の話を続ける
壊れているのはお客様も同じなのに
おかしいと思う
聞いた話を総合的に検証すると
扇風機を旅に連れて行きたいらしい
電源を探すのが大変そうだけれど
延長コードがあれば人はどこまでも行ける
そうやって人は生きてきて
これからも生きていく
話が終わったのだろうか
終わったような雰囲気で
お客様が帰っていく
そういえば
今日が夏の最終日だ
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