人さらいの街/岡部淳太郎
 
届こうとする
人さらいが足音も立てずに街中を徘徊する
掲示板の貼り紙は古くなって黄ばんでおり
端が剥がれて風に揺れている
通りの店のほとんどはもう何年も前から締め切られたままで
人々の心も閉ざされて 開けているものは
もう何ひとつ残っていないかのように見える
街を流れる小川は悪臭を放って淀んでおり
それはどこかで煮られる鍋の臭いと交じり合ってゆく
その川にかかる橋のすぐ傍で
壊れかけた電燈がちらちらと明滅する
あたりはもうすっかり暗くなって
物のかたちも人のかたちもわからなくなって
そんな時に人さらいがやってくる
街のあちこちで 孤独な
一人きりの子供がそれぞれに道に
[次のページ]
戻る   Point(2)