人さらいの街/岡部淳太郎
街をつめたい風が吹き
あたりが暗くなって 物のかたちが歪んでくると
人さらいが暗い影とともにやってくる
街外れの電燈もまばらな古い家々のどこかで
妙な臭いの鍋がぐつぐつと煮られ
風に乗ってどっと笑い声が聞こえたかと思うとすぐに消え
また静寂が通りを包みこんでゆく
人通りまばらな路地の奥で 見捨てられた猫が鳴く
その猫には尻尾がなく
毛は毟られたように乱れている
門限を忘れた子供が一人
急いで通りを駈けぬけようとして
黒づくめの服の紳士にぶつかり
あわてて頭を下げてまた走り出してゆく
鍋がぐつぐつと煮られる臭いは街の空気まで浸食し
つめたい風に乗って家々の軒先にまで届こ
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