行方知れずの抒情 ニ/ただのみきや
 
らない
連載漫画は
断絶し化石化した数頁の
詩に似ていた
記憶と共に灰になって戻らない




時計

時計は生きてはいたが針を失っていた
いまは何時でもなかったし
また何時でもありえたのだ
ものごとのタイミングは個々人で計るしかなく
もはや誰の役にも立たない存在になっていた

時計は生きて鼓動していた
たえず何時でもありえたし
もう変わらずそのままだった
時計は考え始める
――時間とわたし どちらが先に存在したのだろう




空気の詩

空気には詩が書かれていて
淡々とした叙景詩にもそこはかとなく
また叙事詩の人物の言葉の中にも
確かに抒情はあるのだが
――彼女は空気が読めない
すべてが外国語のよう
虚空に響く緩んだ弦
だからいつまでも愛の詩を捧げられる
赤の他人のあなたに




                 《2020年2月23日》









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