信ちゃん/こたきひろし
料理を運んできた。
その顔を見た瞬間、俺もだと思うが彼女もあれっという顔をした。
紛れもなく信ちゃんだった。
だけど、俺も信ちゃんもそれを言葉には出さなかった。
そこは社会人の大人同士だから、きちんと暗黙の了解をした。
俺は食事をしながら、用がすむと店の奥に姿をけしてしまった信ちゃんの事が気になって気になって仕方なかった。
なのに、食事会は何事もなく終了した。
俺は信ちゃんと一言でいい会話をしたかったが、叶う事はなく叶えられずに店を出た。
再び信ちゃんと再会したのはそれから二十年後の事だったが、その事は書かない。書かないつもりだ。
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