無題/朧月夜
匂うような瞳をしたその人は、
優しく手をひいて、
蒼穹へといざなう。
そこでは、
幼子たちが耳朶をゆらし、
風の音を聞いている。
憐憫でも無垢でもなく、
懶惰でも情熱でもなく、
とてもひんやりとした触覚をしているのは……
慎ましやかな瞳、
柔らかな手、
丸みをおびた横顔。
非情でも温情でもない、
祈りでも諦めでもない、
頌歌のように静穏な響き。
それは、
誰の歌声かと、
人々の皆が耳をそばだてる。
天上ではなく、
中空でもなく、
空と空との境目にある、涯(はたて)
東の空には一つ、
しののめの雲が浮かび、
手を差し出すように招いている。
そこへと、
行くのが良いのか、
行かないのが良いのか、
決断もできないままで、
ただ、手を伸ばしている、誰か。
その人の匂うような瞳に魅せられて。
童謡がひとつ、生まれる。
わらべの無辜なこころに。
それは大切なものの存在を喜ぶ歌。
しののめには雲が一つ浮かび、
西へ帰るな、西へ帰るなと、
繰り返している。
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