幽霊船/朧月夜
 
がある。それは死者たちの魂を運ぶという使命だ。まだ見ぬ土地に辿りついた時、ある者は女として生まれ変わり、ある者は男として生まれ変わる。生きていた時の恋も悲しみも、そこには存在しない。誰かがその人生に介入することもない。幽霊船はただ在り、ただ在ることだけで存在をしている。あるいは存在を許されている。死者たちの魂を運ぶ幽霊船は、今では失われてしまった国を目指しているのかもしれない。遠い過去にはあった国を。死者たちの魂は黄菅のように揺られる。彼らが悲しみの涙を流すことはない。喜びの表情に顔をほころばせることも。南の島に住むわたしたちの心の目では、幽霊船は見ることができない。極北の地から、時折下りてくる蜃
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