水のうた/千波 一也
いつかどこかで嗅いだような
懐かしい匂いの言葉がある
いつかどこかで聞こえたような
懐かしい響きの言葉がある
わたしの中を言葉はめぐって
言葉の中をわたしはめぐって
わたしが歌っていたのか 言葉が歌っていたのか
もう、わからない
乾いた身体に水が流れるとき
命が目覚める音がする
まるで水自身が乾いていたかのように
みずみずしい喜びが満ちて流れる
それゆえわたしの愚かなうたも小さなうたも
いつか許されるに違いない
わたしの知る容易さよりも遥かに容易に
わたしの知る複雑さよりも遥かに複雑に
いつまでも どこまでもしあわせな
水のうたを編んでいるかぎり
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