夕暮れ見本帖/塔野夏子
僕は夜明けをあまり知らない
けれど夕暮れならたくさん知っている
薔薇いろから菫いろへとグラデーションする夕暮れ
金色の雲が炎えかがやく夕暮れ
さざ波のような雲が空を湖面にする夕暮れ
不吉なほど赤い雲の夕暮れ
青い雲が大きな花模様みたいな夕暮れ
茜いろが地平からにじみあがる夕暮れ
ただ一様にグレイの夕暮れ
青磁いろの空に淡紅の雲が漂う夕暮れ
群青に澄みわたる空に宵の明星を浮かべる夕暮れ
ほかにもまだいろいろある
どれかひとつ好きなのを選ぶといい
選んだら
一緒にその夕暮れへ入ろう
その夕暮れをからだに沁みこませよう
おなじ夕暮れをからだに沁みこませても
君と僕はおなじにはならないけれど
おなじ夕暮れを味わい尽くして
おなじ夜を迎えよう
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