詩にうつつを抜かしてなかったから/こたきひろし
いない俺の体は少しの量でも直ぐに効いてきた。
気分が悪くなり、トイレに連れていかれた。便器に汚物を吐き出してから席に戻るまで、女の子が付き添ってくれた。
それだけで俺は惚れてしまいそうだった。
翌日の朝。小さな洋食店の上の部屋に住み込んで働いていた俺は、人の気配と物音で目を覚ました。
「お目覚め?」
女の人の声だった。聞き覚えのある声だった。
昨夜訪れた酒場の女の子だった。けばけばしい厚化粧が取れていたから直ぐには気が付かなかったけれど。
幾ら勘の鈍い俺でも気づいた。
昨夜彼女は雇い主の部屋に泊まったんだろうと。
俺は直ぐに起き上がろうとして、起き上がれなかった。俺の体が異性には見せられない状況に至っていたからだ。
「どうしたの?解った。朝マラや小便までの命なり、ってやつかな」
イタズラぽい目で彼女は笑った。
彼女の素顔を見ると、俺とたいして年齢差は感じられなかった。
彼女が雇い主と親密な関係にあるのは程なく
確信させられた
それは俺の青春期の一葉の淡く苦い思いでとなって、しばらくの間は脳裡にこびりついた。
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