隣の芝生/mmnkt
 
弁当屋から出てきた
普通の格好をした普通のおばちゃんが
グレーの軽自動車まで歩いていく
弁当屋から出てきた
作業着にベストを着たおっさんが
仕事用の車まで歩いていく
ただそれだけのことなのに
光沢のある葉っぱは陽の光を受けて
石飛礫の散弾のようにかがやく
地図標識は角だけが光って
ガードレールはカーブの所だけが光る
隣の芝生が青いのは
彼や彼女は自分が持っていないものを
持っているからというより単純に
私ではないからなのだろう
あのおばちゃんも
あのおっさんも
葉っぱも地図標識もガードレールも
アスファルトも白線も
窒素も缶コーヒーもドーナツも
背後には見えない青がある
私に対して
私はあなたではありません
と、私だけが言えないことが
私よ
本当は悲しいのだろう
この悲しみが芝生の正体だ……
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