原始人魚/ただのみきや
 
白い螢の舞う朝に
人魚たちは孵る
顔の裂け目から一斉に現れて
辺りの言葉を食い尽くす
囁きも擬態語も残らない
煽情の尾鰭 くねり
思考のすべてが
白い泡に包まれる


望遠鏡の前に遺書がある
紙ナフキンに記された
自動筆記も象形文字
片目だけがロケットに乗って
彼岸の星へ突き刺さる
  ヘレネーの首
日蝕の 微かな
 業火が縁取る
   カーリーの首
  接眼レンズの外では
   冬田の鷺のように他者だった


食卓を歩く遠い人影
脚に絡まる地吹雪は
飢(かつ)えた人魚の踊り
 分解した時計の針で目を突いた
こどもの眼帯だけが赤く咲いてい
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