卒業式/たもつ
さやく
卒業生のために椅子を並べ続けなければならないのに
笹舟を浮かべられる水の類もないのに
生きている人は気まぐれで
どうでもいいことをささやいてしまう
着席した卒業生たちが行儀よく砂に埋もれていく
笹舟を作り終えた佐々木さんの冷たい手が
直射日光で火照った僕の頬に触れる
そこに僕と佐々木さんの境界線は確かにあるけれど
佐々木さんとささやきは既に一体となって
見分けがつかない
このままずっと椅子を並び続けなければいけないのか
という絶望で心が満たされて幸せな気持ちになる
壇上は遥か彼方となり地平線に隠れそうなのに
滑舌よく卒業生代表の答辞を読んでいるのが
酒井くんだとはっきりとわかる
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