ノート(擦音)/木立 悟
 


どこにいるのだろう
時間を記録していた
たくさんの指は
どこへいってしまったのだろう
絵の具の味をした水が
一本の髪の毛から
くちびるへとくちびるへと
終わることなく落ちてくる



鉄の壁さえ裂く風が
街の影にじっとしている
爪跡につもる埃には
光の吹きだまりが見えている



骨を聴き
迷いは集まってくる
渦のなかを直ぐに降る雨
まだ何かがあるのだろう
今も無音は燃え尽きない



避けることもかわすことも知らずに
砕けながら生きてきて
まともなところは脚しかないのに
自身の光に気づかないまま
光へと光へと歩もうとする



くすぶる土には傷があり
小さな音をたてている
拾おうとしてすれちがう
指と指のあいだには
灰と銀の街があり
水彩に水彩を響かせて
午後を揺らしつづけている







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