絵本/這 いずる
れとシロが言う。先客でいっぱいだった。よかった。安心して見送った。悲鳴が聞こえた。耳を塞いだ。売店のポップコーンを買ったら映画館だった、上映されているサスペンス映画の悲鳴。音楽、は流れていなかった。話している口はぱくぱくとして主人公の男が女を殺そうとしている。無音映画の甲高い悲鳴は後ろの席からした。私は走り出して上映場を出た。シロが待っていた。顔を洗って「猫は立ち入り禁止」と言った。ひどく疲れた顔の女が鏡にいた。白い猫は置いてきてしまった。手を洗う水が淀んでいるようなぬめりがあるような気がして、いつまでも石鹸を泡だてて手を洗っている。猫の鳴き声がする。黒猫が顔を洗っている。洗ってる。
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