眠レナイ夜二/石瀬琳々
月だ
月の光がさしている
やがて窓からこぼれるように
羊はいくつ柵を越えただろう
少年は薄目をあけて天井を見る
白いかたまりは柵からあふれて
容赦のない瞳でじっと見つめ返す
人形は口を利かない
抱きしめても青い目は遠くを見るばかりだ
トランプ遊びにももう飽きた
むかし荊の城に閉じ込められた姫は
今も百年の眠りをむさぼっているだろうか
それとも林檎を齧った赤いくちびる
姫のまぶたには青い月の光がさしている
S`il vous plait.
月の光が
やがて手に届く
指先にからみつくように
眠れない夜には待ち続けよう
あのひとのやさしいくちづけと
真夜中に転がる一個の林檎
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