ふぐ/春日線香
 

ふぐを家族で食べながら
父はわたしに様子を聞く
最近どうだとか
友達はいるのかとか
聞きながら切り身を放ってくれる
わたしはそれが嬉しくて這っていき
口をいっぱいに開けてかぶりつく
塩辛いけどおいしい
身もガラもとてもおいしい

食べ終わった妹が横になる
父も腹を上にして横になる
母はいつまでも鍋をかき回していたが
ついに諦めて横になる
祖父はさっきから見あたらない
父と母と妹とわたし

父は笑顔だ
妹も母も同様に笑顔だ
わたしは悲しくなってきて
ふぐなんて食べなければよかったと思う
家族が居間に横になって
天井を見上げている
暖かい空気と冷たい空気が混ざって
やけに眠気がする

祖父があたりに漂っている
雨音が天井を通して聞こえてくる
カーテンは閉め切られて
家族は眠っている
わたしだけが起きていて
ふぐなんて食べなければよかった
あんなふぐなんて食べなければよかったと
泣くほど後悔しているのだ





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