霧/mmnkt
夕暮れの梢は影絵になって
本に綴じられるのを夢見つつ
黄昏に黄昏られなくなった
昭和の人を慰める
今朝は霧が深かったが
あの夜とちがって私を不安にさせない
霧の配慮だろうか
舐めてみると甘かった
フィルターのかかった太陽は
自分の力が盤石であるのを知っているから
訴訟はしないはずだ
しかしこれが何日も続けば
来年の夏はいっそう激しくなるだろう
陽が落ちて深刻な夜になるまで
田舎の夜はいよいよ怖ろしい
灯りはなく
真っ暗ではない濃い群青の微粒子の群れが
霧状になって辺りを支配し
あの世との境目が分からず
私はひどく混乱したことがある
仕事帰りには至る所で
山が蒸発していた
あれも霧と呼ばれるのだろうか
信号の赤が空の目玉になって
相変わらず何も視ていない
機械は「視る」ことが出来ないが
それが可能となった時代では
いよいよ人との区別がつかなくなるだろう
(詩人とは最後の職業である)
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