ゼロから始まるモノは/こたきひろし
ゼロから始まるモノは何もない
と言う定説
一から始めなくてはならない
一夜の夢にあらわれた少女は
一糸纏わぬその身体を
幻想の寝台に横たえている
その乳房
その乳首
股間にはささやかな陰毛
男は見ている夢のなかで
「これは夢なのか?」
と
疑いを持っている
一から始めなくてはならない
男は恐る恐る
寝台のそばに歩み寄って
恐る恐る少女のそばに立って
その姿を見下ろした
はたして
一から始めてよいものか
と男は躊躇った
性夢は
男女を問わずにあらわれるに
違いない
それは恥ずべき事じゃない
自然な現象
男が少女の身体に手を触れると
そこからしろいはだが
儚く消え出して
みるみる内に全身が消え失せてしまった
或る朝
妻は私に告白した
「昨夜変な夢を見たわ」
どんな夢?
「言っていい?聞いても怒らない?」
怒らないから言ってみて
「知らない男に抱かれる夢を見たの」
そうなんだ
私は一言言って
そのあと黙ってしまった
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