不毛の海図/こたきひろし
フィクションですから、誤解しないで下さい
彼はすでに仕事社会から引退していた
子供らは成長して親の手を離れ、家を出ていった
築三十年の家には老いた妻と二人だけの暮らしになっていた
彼は毎朝暗いうちに同じコースを散歩するのが日課になっている
その日もいつも通り早起きして家を出た
普段から人通りの少ない細い道
途中にちょっとした空き地があって塵が沢山捨ててある
側には「不法投棄禁ずる」の看板が意味なく立っている
彼はいつもながらそこを通るとき憤慨を覚える
しかしその反面には
それもまた彼の散歩の楽しみに組み込まれてもいたのだ
塵の中に宝物が紛れ込んでないかという興
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