ベランダの蜘蛛/Seia
 
で降りていく
何名かの足取りの先に
帰る家は存在するのだろうか
改札を抜けるとそのまま
身体ごと溶けてしまうのではないか
階段を
踏み外しそうになるほど
意識を傾けながら
ゲートに財布を押し当てた

まわりになにもない
コンビニは深夜の手前だった
ペットボトルの
薄いコーヒーを買って
ありがとうございましたの声を聞いた
そういえば
星はみえなかった

埃だらけの公衆電話と灰皿
その脇で
鍵を探していた
もれるあかりをたよりに
かばんの中をかき回しても
何も掴めない
つめたい底
引き抜いた腕

モザイクのように
溶けかけた手をみながら
わたしが
誰かにとっての
おそらくは
あの店員にとっての
蜘蛛だったと
そこではじめて気付くのだった
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