港の、/朧月夜
 
海のうえに浮かんでいるのか──私は知らない。私を知らない。私を知る術のない、私を知るものがない。

 港の岸壁のうえに座り込んで、脚を揺らす。その水面に果てる波紋が、すべての灰色を飲み込んでいく……。消えたのは、消えていくのは、一個のメロディーか、ゼロとしての静寂か。

 私の、私の思い出を、返して。返さないで。オルゴールの響きのように、階層のない、階層のある音たちが、これらの聖域を覆っていく。消えたのは、消えてしまったのは、消えかけているのは、──私を除外する全てではないのか。なかったのか。……一つの疑念。無数の疑問。
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