港の、/朧月夜
 
 港の岸壁のうえに座り込んで、足を垂れる。すべてが霞んだ空の下、私の足指は水に触れる、水に触れる。──思惟などはなく、重く空が地上との境界線をあいまいにしたまま、溶け込んでいく。それは風景のなかの私なのか、私のなかの風景なのか、どちらから落ちてくる思い? どこからは舞い上がる心? 混じりあうこともなく、すべてが「全的」に一体化する。……それは、オクターブの境界を越えて、無限大から無限小へと降りてくる、グラデーションなのではないのかと、移り変わる光の濃淡のうちに、無色の清浄のうちに紛れ、個々の粒子の総体として、取り込まれていく。世界でもあり、世界でもないものへと。街は、海のなかに沈んでいるのか、海の
[次のページ]
戻る   Point(2)