貝の浜/湾鶴
 


海辺の坂を走る自転車のブレーキが
みぃみぃと鳴く
それが合図だったかのように
目をつぶると
浜辺の巻貝の中へ
体が入り込んでしまった
殻の奥でくつろいでいた巻貝は
ヌルリとだるそうに寝返りをうち
侵入者を拒もうと
どんどん膨らんで迫ってくる
しばらく押し合い圧し合いしていたが
どういうわけか貝殻はそのうち乾いていき
そのうちどこを探ってもあの湿り気はなく
まるで乾燥機の中に居るようになってしまった
ホーホーと熱い空気が胸を抜けてゆく

光が、やんわりと差し込んできた
目の力が抜けてくるよ
足もサンダルにひたりとくっつくき
じんわりと汗をかいていた

浜から坂道に戻っても
まだ自分の半分は浜にいるような気がして
振りかえる
浜辺は同じように干され
自分の影はちゃんとついてきている
巻き貝はどこにいったのかわからないので
挨拶がわりにみぃーみぃと
ブレーキを踏んで帰った
日はまだやわらかい



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