ハロウィンの夜、木星は見えているか/帆場蔵人
少年が角を曲がり姿を消した。そういえば幼い頃、父に肩車されて星を眺め歩いたことがあった。仕事人間の父との数少ない想い出だ。兄も傍らを歩いていて、私達は望遠鏡を奪いあった。父は別に星に詳しいわけでもなかった。だから星座について何か聞いた覚えはない。ただあれは木星だ、という父の声が頭のなかに浮かんで消えた。星座に詳しくない父が教えてくれた数少ない言葉が今更ながらに頭に過ったのか。明日の夜、父は生きているだろうか。そして私も生きているだろうか。それは解りはしないが、明日の夜もし生きていたら父の所に行きあれは木星なのか尋ねたい。あれから三〇数年が過ぎたのを私は今さら思ったのだった。
明日にはもう木星が月の傍らに見えないとニュースを見て知ったのはそれから数時間後のことだ。いつだってそのときしか出来ない事があるのだ。そんな事を考えながら私は普段飲まない焼酎を煽って布団を被った。
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