sonnet(肖像)/朧月夜
 
ちぢれた髪(かみのけ)が肩にかかり、
そのひとみは幻のようにとおくを見つめ。
装うこともなく、荒れた手は、
彼方のなにものかを追うようにかすかに持たげられる。

偉人を生みおとした晩には、
暮色に雁のむれが鳴いて通り、
池々におとされた蓮の花とその胚珠も、
自由の讃歌を夢みて歌ってはいなかった。

褐色に腐乱した家々や裏通りにあって、
貧民たちはやはり泥酔のままに転がっていた。
屋根裏で、女はひとり連れを待っていた。
 
晩鐘が、離れ小嶋の海でなり、波に洗われ、
そのひびきが西風とともに彼女の耳孔(みみ)にはいったとき、
彼はやはり廃れた町あたりをさ迷っていた。
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