終わりの旅/日比津 開
これまでどこをどうして
旅をしてきたのだろう?
小さいとき、夏に南の海や
北の山に幾度か
家族で行ったことは
途切れ途切れに覚えている
あの頃は父も母も優しく
弟とも仲良くしていて
食べきれないほどの
豪華な料理を前にして
はしゃいでいた
一時の家族との幸せがあった
結婚の前、恋人に会うため
北に向かう飛行機に
乗る機会が増え
未来を夢見ながら
機内からの雲
窓の下に広がる海に
見とれたことを覚えている
しかし、それも遠い昔となった
娘を亡くし、独身になったとき
毎週、日帰りの旅にでた
城跡や古戦場を巡り
寺社に参り、祈りを捧げた
『何も
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