真似事――愛・死体・秋/ただのみきや
 
まだ言うか


無尽蔵虫の宇宙に息を止め


紫蘇の実をほぐす後ろに暫し立つ


鴉には盗み強奪罪でなく


日が射して終わりの蝶の翅開き


開かれた翅にあるのは誰の詩か


宛先を失くし手紙も蝶になる


忘却は頭の中の落とし物


紐解けば知識虫食い紙魚だらけ


安酒の前に佇みなお迷う


弱ければ強く出るしか術はない


本開き寝しなに落とし顔を打つ


風の朝メジロの顔に頬ゆるみ


ポニーテールメトロノームにつられて


美人が増えたのかおれが変なのか


言葉意味変わらず対象ずれて往く


桜の葉だれの返り血浴びたやら


ひとり飲む当てにならない相手より


あてよりも相手が欲しい酒もある


雑念の海に女神の死体浮く





             《真似事――愛・死体・秋/2019年10月12日》








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