愛は惜しみなく奪わない/こたきひろし
そこには深い井戸があって
井戸の側には渋柿の木があった
渋柿は渋を抜かなければ食べられない
それなり手間がかかり
時間もかかるから
季節が来て
たわわに実を付けても
それが災いした
大半は熟して実を落とし
時間の経過には逆らえず
腐り果てた
家には
一人娘がいた
夫婦の間に遅くできた子だったので
溺愛されて育った
それが災いして我が儘になってしまった
年ごろになって
見目麗しのおんなになった
言い寄る若い男は引く手あまた
それが災いして
一人として実を結ばなかった
自尊心の高さが
我が儘が
おんなの渋になって
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