ブラームスへ/日比津 開
 
つもりなどなかったのだが
ラジオを切るまでもなく
演奏は第2楽章に入っていった
あまりにも渋くて
気が滅入るような第1楽章のあと
しみじみとして落ち着いた
旋律が流れてゆく
まるで晩秋の落ち葉が敷き詰められた
小径をゆっくり歩くようにー

そして弦が次第にふくらみを増し
この上なく美しい旋律を奏ではじめる
たった1回だけで終わり
繰り返しのないことが惜しいくらい

あなたのこの曲は、これまでにも
何回となく聴いてきたのに
こんなにも胸に響いてくる旋律が
ここにあったとは!

そのことがあってから
僕はクラシック音楽の封印を解き
諦めていた人生を思い直し
新たな道を歩むことになった

もはや天職を失い、あなたの前でした
祈りは過去のものでしかない
しかし、僕はあなたを以前にも増して
好きになり、その作品に親しんでいる
音楽を愛するひとりの者として
もう僕はあなたから離れられない


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