巡礼/こたきひろし
 
育った所には
まだまだ戦争の爪のあとが残っていました

東京から疎開してきた家族が
帰れないままになっていました

戦争で片腕と片方の眼球をなくして
すっかり生きる気力をなくしてしまった
男の人もいました

食料不足でした
砂糖は貴重品でなかなか手に入りませんでした
かわりはサッカリンでした

私は田んぼや畑の草むらから
スカンボなんかで空腹を誤魔化してました


決められた曜日ごとに
点在していた農家を歩いて回る親子がいました

二人は無償でしあわせを配って歩いてました
でも
その姿はみすぼらしく汚いものを着ていました

だから
住人たちは不憫に思い
食べ物や僅かな小銭を
施してあげました

そんな親子を子供だった私は
しあわせを配って歩く
巡礼じゃないか
と思っていました

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